再奏その演奏を聴いた瞬間、なぜか分からないけれど涙が頬を伝っていた。
音楽を聴いて涙が出るなんて、そんなこと、これまで一度もなかった。
心の奥まだ誰にも触れられたことのなかった場所に火が灯る。小さなその炎は、じわじわと胸の内を満たしていく。
それは憧れにも、恋にも似ていて、どうしていいか分からないほど、強く惹かれた。
その楽器は「ユーフォニウム」というらしい。
銀色の輝くボディから奏でられる音色はまるでベルベットのように柔らかな光沢を放っていて、雄大な海のようにすべてを包み込んでくる。
優しくて、あたたかくて、なのにどこか強い芯を持っていて…気がつけば俺は、その音色に心をまるごと射抜かれていた。
「六年、部長の橋内です。吹奏楽部は未経験者も大歓迎です。ぜひ、遊びに来てください。」
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